神経衰弱ぎりぎりの女たち

神経衰弱ぎりぎりの女たち 

WOMEN ON THE VERGE OF A NERVOUS BREAKDOWN

1989年10月7日-1989年11月22日

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作品概要

神経衰弱 ━恋する女の伝染病 大森さわこ(映画評論家)

去年の暮れから今年にかけてアメリカの雑誌でやたらと目立つ映画があった、それは“ウイメン・オン・ザ・バージ・オブ・ア・ナーバス・ブレイクダウン”という長ったらしいタイトルの作品だ。「ニューヨーク・タイムズ」や「バニティ・フェア」といった雑誌がのきなみベストテンの一本にあげているし、興行的にも大成功をおさめている。ニューヨークのミニシアターの記録をぬりかえ、年末に予期せぬ拡大ロードショーへと発展したという。今ニューヨーカーを最も熱狂させている洋画、それがスペイン産のこの映画なのだ。
邦題はそのまま直訳で『神経衰弱ぎりぎりの女たち』となっているが、このタイトルがまずニューヨークでうけたのではないかと思う。つまりナーバス・ブレイクダウンというのがいかにもニューヨーカー好みのビョーキだから。
ニューヨークを代表する作家ウディ・アレンなんて、十年一日のごとくこのテーマに取り組んでいる。何かというとアスピリンを精神安定剤の代わりに常用するウディ・アレンのヒロインたち。ダイアン・キートンからミア・ファーローへとパートナーが代わってもウディのナーバス・ブレイクダウンは完治しそうもない。ピリピリ、イライラ、でもそれが都会人の気分。ウディは悪びれた様子もなく神経衰弱の日々を生きぬく。
ニューヨークといえば、この知で人気のあるインディペンデントの作家ジョン・セイルズも『セコーカス・セブン』の中で、ヒロインのひとりにこんなセリフをはかせていたっけ。「最近、調子はどう?」と友人に聞かれた彼女は、現在かかえ込んでいる持病を早口でいくつもあげ、最後にこうしめる━「それと・・・ナーバス・ブレイクダウンよ」。
ナーバス・ブレイクダウン、神経衰弱とは、ニューヨーカーたちに蔓延している現代病であるようだ。
では、日本には初お目みえの監督ペドロ・アルモドバルはこの新作で、どんなナーバス・ブレイクダインを描いて見せるのか。
見る前は、もっとピリピリした感じの作品なのかなぁ、と思っていた。でも本編は妙にあったかくて人なつこい。
最初は60年代の“ボーグ”の切り抜きみたいな感じで始まる。赤いマニキュアをした女の指、ハイヒールをはいたきれいな足、キュッと下着をつけて美しいカーブを描くシルエット。まるでうるわしく着飾ることが女の特権とでもいいたげにそれらが写し出される。その後登場する女たちも、みんなシャープで女のラインを強調したセクシーなかっこうをしている。この映画のロケ先を訪ねたラディカルな作家スーザン・ソンタグが「私は彼の映画のファンだけど、シルエットを強調したチューブ・スカートやハイヒールがあまりにも女っぽくてイヤね」と言ったらしいが、お堅いフェミニストが見たら眉をしかめてしまうほどここでは女っぽさが強調される。
そして、こんなフェミニンなファッション同様、映画の中身も女、女、女。監督のペドロ・アルモドバルは「私はウエスタンやSFというジャンル同様<女>というジャンルを作りたいね」と言っているが、この人、女を描くことにかけては確かにたけている。それも変に芸術家ぶった手法ではなく、ひじょうに親しみやすくて分かりやすい演出。スバリ、恋に菜役女たちの心理をユーモアたっぷりに解き明かす。
アルモドバルにとってのナーバス・ブレイクダウンとは、恋する女たちを襲う病気であるようだ。ここではまずひとりの女がちょっとしたはずみやスレ違いで男に悩まされ始め、それが次々と別の女たちに広がる。電話という文明の利器がこの勘違いをよりコミカルにふくらませていく。
ニューヨーカーたちは、この恋の病気に悩む女たちの物語を大笑いしながら楽しんだに違いない。ウディ・アレンあたりが描く奇妙な屈折がなく、とてもストレートで人情味のある神経衰弱。それが複雑すぎる現代では逆に新鮮なのである。

ものがたり

俳優のペパとイバンは映画の吹き替えで生計をたて、一緒に暮らしていた。イバンは仕事柄、テレビやスクリーンの美女たちにいつも愛をささやいている、私生活でも・・・。
突然、イベンはペパの留守番電話に伝言を残して姿を消す。ペパは二人の思い出の残る家に一人住むことに耐えられず、部屋を貸すことにする。
そんなある日、女友達のカンデラがペパの家に逃げ込んでくる。彼女の恋人がテロリストで、事件の巻き添えになるのを恐れたのだ。
イベンの20年前の恋人ルシアもイベンを捜している。彼女には、彼との間に息子がいる。そのカルロスが偶然にもペパの部屋を借りに訪れる。ペパはカンデラの一件で、カルロスの紹介させた弁護士を訪ねるが、実は彼女こそイベンの新しい恋人なのだ。
ペパの部屋にテロ事件の捜査官たちとイベンに復讐しようとするルシアが現れ、大混乱に陥る・・・。

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スタッフ・キャスト

監督+脚本:ペドロ・アルモドバル
撮影:ホセ・ルイス・アルカイネ
音楽:ベルナルド・ボネッツィ
美術:ホセ・マリア・デ・コシア
製作総指揮:アグスティン・アルモドバル

キャスト:カルメン・マウラ/フェルナンド・ギリェン/フリエタ・セラーノ/アントニオ・バンデラス/ロシー・デパルマ/マリア・バランコ/ロレス・レオン

1987年/スペイン/カラー/ビスタ/88分
原語:スペイン語
字幕:細川直子

協賛:ペリエ・ジャポン株式会社
配給:ユーロスペース

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