ポイズン

ポイズン 

Poison

私たちの世紀は毒薬<ポイズン>の世紀です。━ジャン・ジュネ

1993年2月27日-1993年3月26日

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作品概要

かいせつ
迷宮をさまようような映像体験
◆91年サンダンス・フィルムフェスティバルで[ドラマ部門]でグランプリの輝いた31歳のトッド・ヘインズの長篇デビュー作『ポイズン』。《ホモ》《ヒーロー》《ホラー》という、ストーリーも映像スタイルもまったく異なる3つのパートが入り乱れながら、驚くほど美しく斬新な1本の映画となっている。
◆《ホモ》━ジャン・ジュネの「薔薇の奇跡」が原案。刑務所で男どうしの研ぎ澄まされた恋が、監獄内シーンの暗く透明な蒼と、古い絵葉書を思わせる優しげな色調の回想シーンでセンセーショナルなエロティシズムを描き出している。
◆《ヒーロー》━ロングアイランドで父親を射殺し、窓から身をひるがえすなり、空に昇っていった7歳の少年の正体をビデオキャメラによる撮影やインタビュー、無色無臭のナレーションで追う擬似TVドキュメンタリー。
◆《ホラー》性衝動の秘密を解きあかそうとした科学者が、抽出したホルモンを誤って飲んでしまい、伝染病を撒き散らすいまわしい殺人鬼として世間から敗訴してしまう。これを照明から、カメラアングル、音楽、編集すべてにいたるまでキッチュなほど徹底的に50年代の白黒B級ホラー映画のスタイルで描く。
◆この3つのパートが、ザッピング(テレビのチャンネルをリモコンでせわしなく変えること)のように、交互に現れる。これはトッド・ヘインズによれば「ザッピングの構造をとっていても、映画がもっている人の感情を動かす力が働くことを見直す」ために採った構成である。

謎を解くキーワード、ジャン・ジュネ
◆この一見迷路のような『ポイズン』を解く鍵のひとつは泥棒作家ジャン・ジュネ。監督本人も言っているように『ポイズン』のほとんどの着想はジャン・ジュネから受けている。例えばザッピングの作品構成だが、ジュネの文体もまた変幻自在である。時間やあ空間をものの見事に飛び越え、はたまた主題の語り口までもが、自在に変化する。
◆また《ホラー》における伝染病は明らかにエイズの存在を暗示しているが、これも、エイズの存在を知らずに他界したジュネが生きていたら、彼は何と言っただろうかという監督の発想からのもの。
◆そして一見ジュネとは何の関連もないような《ヒーロー》では、子供が昇天するというキリスト教的発想じたいがジュネ作品に色濃く見られるもので、“父親を射殺した子供=悪”という図式を“昇天する子供=天使”に逆転させてしまう発想もまたジュネそのものだ。
◆《ホモ》全体がジュネ作品からの直接的な引用でキラ星のごとく散りばめられている。つまり、『ポイズン』を華麗で妖しい3枚の布地を織り合わせたものとして見る時ジュネはその一枚の布地《ホモ》でもあり、3枚を織り合わせる糸でもある。

社会のスケープゴートたちの罪と罰の物語
◆もうひとつの鍵は、『ポイズン』の意図、ヘインズ監督が何故のこの作品を撮ったのかにある。“この世は、度を失った恐怖ゆえに滅びつつある”という冒頭に引用されたジャン・ジュネの言葉こそ、監督が3つのパートに共通して警告していることである。
◆度を失った恐怖に侵された社会が求めるスケープゴートだ。エイズ患者をまるで犯罪を犯した罰を受けているように報道するマスコミうぃ暗喩する《ホラー》は、ステレオタイプなゲイ=エイズという図式を厳しく批判しながら《ホモ》へとつながる。同性愛者もまた、保守主義が蔓延した現代社会への犠牲者である。
◆「欲望に従おうとする本能、世の中の多くの人々が拒絶するものであっても自然で普遍的な本能が、何故にそしていかに抑圧されるのか。それに与えられる罰がどれほどひどいものか━僕の映画は基本的にこういうことを問いかけてきた」。
◆本作は公開当時アメリカで大論争をまきおこした。すでに写真家メイプルソープなどを攻撃していた最右翼団体の指導者が、本作に監獄内でのレイプシーンがあることに過剰反応し、助成金を出した団体に抗議したのが発端で“わいせつだ”“芸術的表現だ”といった論争がおこったのである。
◆『ポイズン』ではいずれも社会の規範をはみだして制裁をうける犠牲者を、いかに周囲が裁き、いかに世が不寛容であるかを描いている。そしてその当事者である社会が『ポイズン』という映画を異端として排斥しようとしたのだ。このことはヘインズ監督が『ポイズン』で危機感をもって問いかけた疑問や警告に対する皮肉な答えだった。
◆31歳の新鋭トッド・ヘインズの斬新な映像スタイルを楽しみ、ジャン・ジュネの世界に感性をゆだね、そして監督が鳴らした警鐘にも耳をそばだててほしい。

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スタッフ・キャスト

監督+脚本:トッド・ヘインズ
原案:ジャン・ジュネ「薔薇の奇跡」「泥棒日記」「花のノートルダム」
製作:クリスティーヌ・ヴァション
撮影:マリース・アルヴェルティ
モノクロ撮影:バリー・エルスワース
プロダクション・デザイン:サラ・ストールマン
衣装デザイン:ジェシカ・ヘイストン
音楽:ジェイムズ・ベネット
製作総指揮:ジェイムス・シャマス/ブライアン・グリーンバウム

キャスト:スコット・レンデラー/ジェイムズ・ライオンズ/トニー・ペンバートン/アンドリュー・ハーペンディング/エディス・ミークス/ラリー・マックスウェル/スーザン・ノーマン

1991年/アメリカ/カラー&モノクロ/ヴィスタサイズ/モノラル/85分
原語:英語
字幕:石田泰子

配給:ユーロスペース

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