奇跡の海

奇跡の海 

Breaking the Waves

この愛は、誰にも汚せない

1997年4月12日-1997年7月11日

★’96年カンヌ国際映画祭審査員グランプリ受賞

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作品概要

ものがたり
◆愛が奇跡を生み、奇跡が愛を生む。ラース・フォン・トリアー監督は『キングダム』に続く長篇第5作目にあたるこの映画を、“ア・シンプル・ラブ”ストーリーと表現する。
◆1970年代初頭。スコットランド北西部にその村はあった。荒涼とした台地、台地を打ちつける波、そして村を取り囲む海。なだらかな丘の頂上には鐘のない教会があり、人々はそこで祈る。ベスはそんな村に生き、流れ者のヤンに出会う。ベスにとってヤンは、神からの贈り物だった・・・。
◆仕事のために遠く離れた油田に行かなければならないヤンとの、束の間のふたりだけの生活が始まった。それは愛だけがこの世に存在するかのような生活だった。やがてヤンは油田へ行き、ベスは帰りが待ちきれず、すぐにでも彼が戻ることを神に願う。そしてその願いは、思ってもみなかったような形で叶えられるのだった。
◆常に神が介在するベスの愛は加速するごとに鈍化し、やがて奇跡を生む。強すぎた愛が生んだ(とベスが信じる)不運な事故でヤンは全身麻痺となり、皮肉なことにベスが臨んだ通り彼は彼女のそばを一時も離れられない存在になる。一方ヤンはベスに愛人を作るよう説得することで、彼女の愛に報いろうとする。“別の男と関係を持つこと”。ヤンと愛の約束を交わした時の戸惑いは、やがて確信に、そして神との誓約にまで昇華する。ベスはヤンの病気の回復と引き換えに命まで捧げようとするが、それは決して自己犠牲ではなく、自らが選びえた奇跡の道だった。そして究極の愛の姿でもあった。

’96年カンヌ。
賞賛の嵐のなかで・・・・・

◆1996年カンヌ国際映画祭。審査員グランプリ大賞が『奇跡の海』と発表され、主演のエミリー・ワトソン、ステラン・スカルスゲールドらが次々ち壇上に上がるが、そこにラース・フォン・トリアーの姿はなかった。長篇デビュー作『エレメント・オブ・クライム』を携えて彼が南仏の地に降り立ってから12年が経っていた。この映画で高等技術特別賞を受賞、さらに『ヨーロッパ』で同賞と審査員特別賞を受賞、3度目のカンヌの栄冠だった。しかし閉所恐怖症的パラノイヤが彼を支配し、飛行機はむろん列車にさえも乗れないその身体をドイツまで運ぶのがやっとで、携帯電話ごしに観客の喝采を聞くしかなかったのだ。2カ月も前からカンヌに行くためにセラピーを受けていたのに。
◆デンマーク映画界の“恐るべき子供”カール・テオドール・ドライヤー以来の才能と言われるラース・フォン・トリアーにとって、ラブ・ストーリーは初めての体験だった。しかし、『エレメント・オブ・クライム』『ヨーロッパ』『キングダム』など、映画のテクノロジーに裏付けされた独特の映像美学もここでも健在だ。チャプターごとの映像以外に音楽を使用しないこと、ヴィム・ヴェンダースの撮影監督であるロビー・ミュラーによる全篇手持ちカメラの撮影等々により、ラブ・ストーリー独特の甘さを一掃する。またシーンの間にペル・キルケビーによるデジタル処理された象徴的なパノラマ・ショットが挿入されるが、そのショットには彩色が施され、細密画のように高度に解像され、その他の部分と対照をなしている。

ベス役との奇跡のであい、
そして音楽

◆主演のベスを演じたのは、今回の作品がスクリーン・デビューとなるイギリス人女優エミリー・ワトソン。当初ジェームズ・アイボリーの作品でお馴染のヘレナ・ボナム・カーターがキャスティングされていたが、エージェントが性的なシーンにたじろぎ辞退、急遽オーディションが開催されるが、そこに素顔で裸足のまま立っているエミリーを見る。フォン・トリアーは彼女の発見こそが奇跡だったと表現する。またヤン役には『存在の耐えられない軽さ』『レッド・オクトーバーを追え!』に出演したスウェーデン俳優ステラン・スカルスゲールドが姉のドド役には『ビフォアー・ザ・レイン』『ネイキッド』のカトリン・カートリッジが選ばれた。また脇を固めるのが『グラン・ブルー』で主演を演じたジャン=マルク・バールや『マイ・プライベート・アイダホ』のウド・ギアーといったフォン・トリアー作品ではお馴染の顔ぶれだ。
◆チャプターごとの効果的に挿入された音楽は、70年代のミュージック・シーンを代表するスタンダード・ナンバーであるプロコル・ハイムの「青い影」やエルトン・ジョンの「グッバイ・イエロー・ブリック・ロード」、レナード・コーエンの「スザンヌ」などから、モット・ザ・フープロ、ロッド・スチュワート、ディープ・パープル、デビッド・ボウイのレアな曲まで贅沢に使用されており、70年代を一気に蘇らせる。また、エンド・クレジットではバッハによる「シチリアーナ」が魂を葬送するかのように美しく奏でられている。

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スタッフ・キャスト

監督+脚本:ラース・フォン・トリアー
プロデューサー:ヴィベケ・ヴォンデレフ/ペーター・オールベック・ヤンセン
製作総指揮:ラース・ヨーンソン
撮影:ロビー・ミューラー

キャスト:エミリー・ワトソン/ステラン・スカルスゲールド/カトリン・カートリッジ/ジャン=マルク・バール/ウド・キアー

1996年/デンマーク映画/158分/カラー/シネマスコープサイズ
字幕:松岡葉子

サントラ盤:デジタルメディア・ラボ

提供:アミューズ/カルチュア・パブリッシャーズ/テレビ東京/ユーロスペース
特別協賛:CHARLES JOURDAN
後援:TOKYO FM
配給:ユーロスペース

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